悪魔の熱情リブレット
「いや…」
アンドラスは腕を頭上に掲げ、愛用の剣を出現させた。
「こいつらは僕が直々に破壊してあげるよ」
白い髪の下で金色の瞳が狂気の輝きを放つ。
「死ね」
アンドラスが鋭い刃を振り下ろした。
その瞬間、シルヴェスターの手によりティアナの視界が遮られる。
ティアナが見るには凄惨過ぎる場面。
しかし見えなくとも音は聞こえる。
肉を切り裂き突き刺す凶器の鈍い響き。
「ひ、ひぃい!ぎゃああっ!!」
「人間て頭弱いね。逃げられるわけないじゃん」
アンドラスの笑い声。
「ハハッ!酷い顔だね?もっともっと、その間抜け面を拝ませてよ!」
「あ゙、あああ゙~!!」
狂った悲鳴。
「い、いや…やめて、アンドラス」
それらの音は少女の頭の中で残響となり、鳴り止まない。
「いやああぁぁ!!!」
ティアナはシルヴェスターの手を退かし、天使の如く白い衣装を返り血で赤く染めた悪魔を見据えた。
「もうやめてぇー!!」
泣き叫ぶ少女の声に振り上げていた剣を下げるアンドラス。
「ティアナ…?」
「もう、やめてよ。アンドラス…」
彼は涙を流す少女を見て不思議そうな声を出した。
「何で止めるのさ?これはティアナを連れて行こうとした危険な存在だよ?」
そう言いながら足元に転がる男を軽く蹴る。
「そうかもしれないけど…殺しちゃダメ…」
恐怖を押し隠し、震える足に力を入れる。