悪魔の熱情リブレット
「ほら、見て!私はどこも怪我してないよ?だから、その人達を殺しちゃダメなんだよ!」
この主張にアンドラスは笑うしかなかった。
「わかってないね。ティアナ。人間は卑怯でずる賢くて恐ろしいんだ。下手に情けをかけると、後で痛い目を見るんだよ。だからそうならないよう殺す。信用できないからね」
アンドラスの言葉にティアナは愕然とした。
「だから、殺すの…?」
少女の呟きは虚しく宙をさ迷う。
そんなティアナを横目に、アンドラスは再び殺戮を始めようとした。
――なら…
「なら、私も殺す…?」
アンドラスの手が止まる。
「私も…人間だよ?」
ティアナは静かに問い掛ける。
アンドラスは剣を振り上げた状態で固まったまま目線だけティアナに向けた。
(ティアナを、殺す?)
自分が育てている少女だって人間なのだ。
いつか自分を裏切り隙を見て殺そうとするかもしれない。
情けをかけて生かし、なおかつ側においていたら危険極まりない存在ではないか。
――ティアナを、殺す?
いつもの彼ならすぐに答えていただろう。
「殺す」と。
しかし今、彼はためらっている。
「殺す」か「殺さない」か。
簡単な二択を。