悪魔の熱情リブレット
誰よりも先に家に戻り居間で脱力する。
アンドラスは先程の問いを繰り返した。
「ティアナを、殺す?」
殺せるのだろうか。
その答えは剣を投げた本人が良くわかっているだろう。
(僕は…殺せない…)
彼は瞳を閉じて暗闇を見つめた。
(僕には、殺せないや…)
飽きたらすぐに殺せると思っていた。
飽きた玩具はいつもさっさと壊してきた。
そこに、ためらいなど有り得ない。
初めて破壊をためらった。
そんな自分に純粋に驚いている。
しかしそんなのは瑣末なこと。
浮上するのは今後のティアナの扱い方に関する問題。
アンドラスはティアナの問いで気づいてしまった。
(このままじゃ、きっとティアナを手放せなくなる…)
死ぬまで共に居続けるか、これ以上情がうつる前に逃がすか。
大きな変化はそこに殺すという選択肢が無くなったことである。
彼は力無く笑った。
「無理だ…」
目をつぶっても見える少女の姿。
鮮明に聞こえる彼女の声。
「僕は…」
――どうしようもなく、ティアナに執着しているみたいだ…
それはそれは熱情的に…。