悪魔の熱情リブレット
先程よりも風が冷たく感じる。
ティアナはとぼとぼ歩き、町の広場を訪れた。
シンボルの時計塔を見上げ、考えるは彼のこと。
「アンドラス…」
殺されるかと思ったあの時、遠退いたアンドラスの気配にティアナは恐る恐る目を開けた。
黙って家に戻ってしまった彼の背中を追いかける。
走って家の前に着いた。
しかし、入れなかった。
入る勇気がなかった。
仕方なく広場に行きアンドラスのことを考える。
(私は確かにアンドラスに助けてほしいって思った…)
けれど望んだのは殺戮ではない。
血を浴びて笑う彼が見たかった訳じゃない。
(私は、勘違いしていたの…?)
あまりにも優しく接してくれていたからティアナは忘れていたのだ。
彼が「悪魔」だということを。
「悪魔」という生き物の本性を。
「そういえば、初めて見た…」
アンドラスが人間を殺すところ。
今まで共に暮らしていて、一度もティアナの前では殺しをしていなかったアンドラス。
町に入り込んだ人間はいつもティアナに気づかれないようにシルヴェスターが処理していた。
「私は…」
――守られていたのかな…?
初めて彼が隠していた世界を見たような気がした。
(いつも玩具玩具って言うから、気づかなかった…)
――私は大切にされてたんだ…