悪魔の熱情リブレット
鐘が鳴った。
時計塔のからくり人形が動き出す。
時計は午後の五時を示した。
「私、最低だ…」
他のどんな人間よりもアンドラスに大事にされていたのに、最低な質問をした。
「謝らなきゃ…」
鐘の音を聞きながら彼女は決意した。
――逃げるなティアナ!
自分に言い聞かせると、少女は駆け足でアンドラスのもとへ向かった。
誰かが居間に入ってきた足音に、アンドラスは敏感に反応した。
服についた血の染みをタオルで拭いながら彼は呼びかけた。
「シルヴェスターか?いつも通り死体は魔界に…」
「アンドラス」
白い悪魔を呼んだ声は彼の従者のものではなかった。
「ティアナ…?」
アンドラスは顔を上げ、少女がいる方向に顔を向ける。
「いつも通りって、何?さっきの人達の他にも、来た人がいたの…?」
ティアナの鋭い指摘に彼は溜息をついた。
「ああ。いたよ。いっぱいね」
「みんな、殺しちゃったの?」
少女の問い掛けにしばし沈黙する。
「そうだよ。ティアナ以外はみーんな殺した」
この答えにティアナは悲しげに微笑した。
「やっぱり、私は何も知らなかったんだ…」