キミがいればいい
「櫻木!」

後ろから声をかけられた。
振り向くと、春隆が青いジャージを着て走ってくる。
腕のそばを、ひじまでまくり上げ、足元は七分まで折って、全体的にだらりとした格好だった。
琴見は、春隆に見とれそうになる自分を必死で止めた。

「サンキュー、来てくれて」

「うん」

「早速今日からなんだけど、書道は大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

「あぁ」

2人の会話はそこで終わった。
2人は、何を話そうか次の言葉を探す。

「い、行こっか」

春隆がそう言ったので、琴見は頷いた。そのとき、

「おぼっちゃま!」

春隆の肩がビクッと震えた。
この声…まさか、坂田が?

「おぼっちゃま?」

琴見は聞こえた言葉を復唱する。
春隆はうそ笑いをしながら、坂田を見た。

「おぼっちゃま!」
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