キミがいればいい
今までの自分なら、親父が結婚相手を決めてきても、家出まではしないだろう。
しかし今は家出をしてまで拒否したい。
そのわけは、ただ1つ。
決して変わることはないと確実に言える。
目を閉じれば浮かんでくるあの笑顔。
耳をしませば聞こえてくるあの声。
初めて抱いたこの気持ち。
その気持ちを親父には邪魔させない。
されてたまるか!
春隆は、自分に活を入れ直し、部屋から一歩ぬけだした。
静かにすれば何とか出られる。
慎重に次の足を前へ踏み出す。そしてまた一歩。一歩…。
30分かけて長くて広い廊下を抜けると、大きな玄関にたどり着くことができた。
安堵の息をもらす。
今までずっと腰を丸めてゆっくり歩いてきたので腰が痛い。
春隆は腰に手をあて、顔を歪ませながら後ろにそらした。
すこしは楽になったが、まだ終わりではない。
最後の試練。
玄関を出なければならない。
深呼吸をした春隆は、緊張感をもちながら靴に足を入れた。
もう少しだ。
もう少しだ。
そう思った矢先、春隆の期待は崩れ去った。
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