キミがいればいい
「何をしている、春隆。」

春隆の肩が跳ねた。
背後から清郷の声が確かに聞こえた。
空耳であってくれ…。
そう願って振り返ったが、当然ながら空耳ではなかった。
親父は歳だから、多分トイレに起きてきたのだろう。

「こんな時間に何してる?」

「あっ、いや……ちょっと外で星見ようと思ってさ。眠れかなったから。」

自分自身でも、嘘をつくのが下手だと思った。
しかし、もう後戻りはできない。
春隆はそそくさと玄関を開けて、出て行こうとした。
が、やはり父を騙すことはできなかった。

「お前まさか…家を出て行く気じゃないだろうな?」

春隆はゆっくりと振り返り、ヤバイという感情を表に出した。父と長く目が合う。
春隆は、もう逃げることはできないと悟った。
ここまで見抜かれるとどうしようもない。

「ば、バレちゃった?」

父の表情が鬼と化していく。
春隆は、この後の自分の姿を想像し、身震いした。
気がつけば足が勝手に動いていた。
もう、逃げるしか方法はないと思ったのだ。
足の速さでは誰にも負けない春隆は、追いかけてくる父をすぐにまくことができた。
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