神様がくれた夏
会話が何一つないものだから、あたしは無言で掃除を進めるしかない。
ゴシゴシとブラシで床を擦るのに疲れたあたしは、一休みしようと手すりを上って上へと上がった。
上がってはプールサイドに腰をおろして、意外にも真面目にブラシで汚れを落としている夏目涼を見つめる。
本当に謎な男だ。
会話の1つくらいしてくれてもいいじゃないか。
それよりも視線を一度も合わせてくれないってどういうことだ。
少なくともお前さんがあたしに頼んだのだから、少しくらいあたしのことを考えてくれてもいいんじゃないかと、次第には怒り始めた。
すると夏目涼は視線を上げないままくるりと振り返ってあたしが休んでいることを確認すると、ブラシをその場に置いて上へ上がって来た。
休むのかと思ったのだけれど、夏目涼はやっぱりあたしなんか見えていない素振りで通り過ぎるとプールから出て行ってしまった。