鈴屋のひとひら
猫は毎日、青年に小さな贈り物を届けていました。
春には桜の花びらを届けました。
夏には貝殻を届けました。
秋には枯れ葉を届けました。
桜の花びらは、一番良い香りのものを届けたかったので、遠くの山まで行って探しました。
貝殻は、一番良い音のするものを届けたかったので、遠くの海まで行って探しました。
枯れ葉は、遠くまで行って探せませんでした。
そのころになると、彼女はひどく疲れていて、息をすることもつらかったのです。
本当は、歌をうたう枯れ葉を届けたかったのです。
猫は、冬には頑張って、宝石のような木の実を届けようと思いました。
けれど、青年の工房まであと少しというところで、体中から力が抜け出し、何も見えなくなってしまいました。
そして、抜け殻みたいにぱたりと倒れたきり、動かなくなったのです。