【短編】カフェ・モカ
いらっしゃいませ、と奥のカウンターからマスターの声。

「カフェ・モカを一つお願いします。」

「いつものやつだね。席に持っていくよ。」

マスターはニッコリ微笑んだ。

キミはもう来ているのだろう。

いつもの場所に。時間きっかりに。

鳴り止まない左胸を必死に押さえて、あたしは右を振り向く。

いつもの場所には

キミとキミの彼女。

二人がけのテーブルには、今日は一つだけデザインの違う椅子が用意されている。

そこに座るのが、きっとあたし。

前を、キミとキミの彼女の顔を見れない。

俯きながら挨拶した。

「ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった。」

見たくない見たくない。

彼女の顔なんて見たくないよ。



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