【短編】カフェ・モカ
エリちゃんは手をつないでいた。

キミじゃない男の子と仲良く手をつないでいた。

キミとエリちゃんが“別れた”なんて話は聞いていない。

キミもこの前、楽しそうに話していたよね。

エリちゃんとカラオケにいったとか、ボウリングをしたとか。

目の前にいるのは、いったい誰なんですか?

かぁーっと、体中を熱いものが駆け巡った。

許せない。

あたしの足はそう思うより先に、エリちゃんたちを追いかけていた。

ふわふわウェーブのシルエット。

「エリちゃん!」

息つく暇もない。

エリちゃんが後ろを振り向く前に、あたしはエリちゃんの肩をぐいっと引いていた。

よろけるエリちゃんとあたしのほうを見る彼。

エリちゃんの目は大きく開いた。

「最低ね!」

パチンという音。

エリちゃんの可愛い頬が赤く染まってゆく。

ジンジンするあたしの右手。

心もジンジンと傷んでいた。

「トモちゃん、あのね・・・」

エリちゃんはとても申し訳なさそうな顔をしている。

彼はエリちゃんをかばうように前にでて、あたしに言う。

「いきなりひどいじゃないですか!彼女がいったい何をしたんですか?」

「その子に聞いて。」

ドカドカと大きな足音をたてながら、あたしは二人の前を去った。

エリちゃんはずっとあたしを呼んでいた。
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