【短編】カフェ・モカ
マスターはいつもの場所にあたしを案内して、ひざ掛けを用意してくれた。

キミになんて言えばいいんだろう。

キミはエリちゃんの秘密を知ってるのかな。

キミに会いたい。

「あたしの出る幕じゃないよね。」

思わず独り言を呟く。

「お待たせしました。いつものです。」

差し出されたのは、ホイップのないモカだった。

「あの、これ・・・。」

マスターはにっこりと微笑んであたしの向かいに座った。

「シュンちゃんとキミは、モカとホイップみたいだって思ってた。」

「モカとホイップ?」

「モカはエスプレッソにチョコレートシロップをいれる。それだけでも十分甘くていい香りがするだろう?」

「はい。」

マスターの話は、なんのことやらあたしにはさっぱりわからなかった。

「ホイップクリームは好き嫌いが分かれる。でも、好きな人にとっては、無限の味の可能性を広げる役目を果たすんだよ。」

「はい。」

「ホイップがあるから、コーヒーの苦味をより感じたり、チョコレートの甘い香りがひきたったり、新たなハーモニーを感じれる。」

「はい。」

「シュンちゃんとキミはモカとホイップだよ。」

「はぁ。」

やっぱり、よくわからなかった。

ホイップ抜きのモカを口に運ぶ。

飲みなれていないせいか、とても物足りなかった。

甘いのは苦手だったはずなのに。
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