【短編】カフェ・モカ
マスターに家の途中まで送り届けてもらったものの、あたしはまだフラフラと街を歩いていた。

帰りたくなかった。

ポケットの中で鳴り止まない携帯電話。

きっとサトルくんからだ。

あたしはそのまま電源を切る。

秋の風は、体の芯まで染みこんできて熱を奪っていく。

気の向くままに歩き、気がつくと近所の公園にいた。

ブランコがギイっと風に揺られている。

小さい頃にキミとよく遊んだ場所だった。

噴水がお気に入りで、飽きもせずに毎日学校帰りに眺めた。

手をつないだり、キスしたり

―なんてことはまったくなかったけど。

キミと同じ時間と空間を共有できることが

なにより幸せだった。

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