【短編】カフェ・モカ
約5分ほどの『コーヒーができるまで』観察を終えると、

キミは大切そうに両手でモカを抱えて歩いてくる。

こぼさないようにゆっくりと忍び足で。

「あぁ!」

だけど、あと一歩というところで必ずつまづくんだ。

あたしの目の前でポタポタと茶色の雨がフローリングを濡らす。

「ホイップが落ちなくて良かったね。」

あたしにできる最上級のフォロー。

「そうだけど…。」

しょんぼりと肩を丸めて椅子に座ったと思うと、さっそくカップに口をつける。

現金な奴だ。

ホイップクリームを丸ごとスプーンですくって食べてしまう、おかしなキミを見つめる。

「そういえば、あたしに聞いて欲しいことがあったんじゃないの?」

大きく開けた口を開いたまま、口元にスプーンを運ぶ手が止まった。

「そうだった!忘れてた。」

きっとまたどうでもいいことなんだろう。
忘れちゃうくらいの大ニュース。
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