幽戯場-コウエン-
ビニール袋がパタと音を立てた。
表通りに向けていた視線を彼に戻す。
ビニール袋の上を水滴が滑り落ちて、
濃紺のズボンに染み込んでいった。
驚いた。
男の人の涙なんて、
あまり見るものでもない。
胸の奥がグッと苦しくなった。
息が吸えないくらい、締め付けられる。
気付いたら、
そのサラリと流れて顔を隠す髪に手を伸ばしていた。
そっと触れる。
ビクリと体を揺らして、
彼が顔を上げた。
同時に、
私もビクリとしてしまう。
だって、
触れるだなんて思ってなかった。
微かだけれど、
彼の体温まで伝わってきて。
慌てて離した手を、
ギュッと握りしめた。
彼はキョトンとしてこちらを見ている。
その視線は、
私を見ているかのようにしっかりとしていて。