窓際のブラウニー


マスターは何度も壁掛け時計を見た。

もう随分時間が経っていたが、私はこの場所を離れることができなかった。




涙が止まっても、私の心の中の涙は溢れ続けていた。



田所さんは


私よりずっとずっと悲しい想いを知ってる。



だから、あんなにも優しい笑顔を持ってるんだ。





私が最後に手にした写真集は、真っ白な犬だけが写っていた。



5ページ目から

その犬の首に番号札がついてはいなかった。





「あぁ、それは雪子さんの…」


カウンターの向こうからマスターが声をかけた。



気になる名前を出して、マスターは口をつぐんだ。



隣にいるマスターの奥さんは、マスターを軽く睨んだ。







雪子さん。



あぁ、そうか。




きっと、田所さんの大事な人。


決して、話そうとしない、彼の愛する人なんだ。


< 106 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop