窓際のブラウニー
マスターは何度も壁掛け時計を見た。
もう随分時間が経っていたが、私はこの場所を離れることができなかった。
涙が止まっても、私の心の中の涙は溢れ続けていた。
田所さんは
私よりずっとずっと悲しい想いを知ってる。
だから、あんなにも優しい笑顔を持ってるんだ。
私が最後に手にした写真集は、真っ白な犬だけが写っていた。
5ページ目から
その犬の首に番号札がついてはいなかった。
「あぁ、それは雪子さんの…」
カウンターの向こうからマスターが声をかけた。
気になる名前を出して、マスターは口をつぐんだ。
隣にいるマスターの奥さんは、マスターを軽く睨んだ。
雪子さん。
あぁ、そうか。
きっと、田所さんの大事な人。
決して、話そうとしない、彼の愛する人なんだ。