窓際のブラウニー
顔色を変えた田所さんが、ゆっくりと視線をマスターに向けた。
マスターは奥のお客さんに、ケーキセットを運んでいた。
「聞いてはいけないことがあるんですか?私に秘密がある?」
田所さんは、マスターを見つめたまま、少し微笑んだ。
「いや…そういうわけではないんだ。ただ、自分の口から伝えたかっただけだよ。」
急に敬語でなくなった田所さんは、真剣な表情で私を見つめた。
田所さんのコーヒーから立ち上る湯気が田所さんの顔の前を通り過ぎる。
もう1度手を握ってくれた田所さんは、マスターが後ろを向いているのを確認してから…
私の手の甲にキスをした。
「どうすればいいんだ…僕は。」
マスターがこちらに振り向いた時にはもう田所さんは私の手を離していた。