窓際のブラウニー
「お時間があるのなら中へどうぞ。」
優しいマスターの声に、私の我慢していた涙がこぼれた。
マスターは入口の扉に『閉店しました』という看板をかけた。
そして、カウンターに私を座らせると、香り高いコーヒーを入れてくれた。
久しぶりの店の中で、変わっているものは花瓶に挿した花だけだった。
桜の枝の先に咲いた小さな桜の花が美しかった。
今どこにいるのかもわからない田所さんに見せたいと思った。
「彼には会ってないんですか?ここへも全く来なくなって心配しています。」
マスターは春らしいピンクのシャツを着ていた。
奥で洗い物をしていた奥さんも私に気付き、頭を下げた。
「田所さん、どこにいるのかご存知ですか?」
私の問いかけに、マスターは黙って首を横に振った。