窓際のブラウニー
「最初で最後のキスです。僕は今のキスを一生の宝物にして生きていく。」
田所さんは私の手を握り、川沿いを歩き始めた。
少し歩いた所で田所さんは腰を下ろす。
さっと石の上を拭いてくれる優しさがやっぱり愛しい。
「最後になんてしたくない・・・」
もう今なら何でも言えた。
私の心は自由になっていた。
「僕がどれだけ悩んだか知りたい?」
少しやんちゃっぽく微笑んだ田所さんは、私の顔を覗きこんだ。
「雪子のお墓へ何度も行った。真千子さんを愛してしまったと報告した。僕は一生雪子だけを愛すると決めたのに、他の女性を愛してしまった。そのことを雪子に謝った。」
田所さんは、雲に隠れて明るさを失くした太陽を見つめた。
「雪子はね、許してくれたんです。行っていいよって。真千子さんの所へ行っていいよと言ってくれた。」
田所さんは握った私の手をもう一度握り直し、空にため息をついた。
「僕は奪いたかった。あなたを・・・この腕に抱いて、僕だけのものにしたいと思った。でも・・・勇気がなかったんだ。あなたが飛び込んで来てくれるのを待っていた。僕が奪うことであなたの未来の幸せを壊してしまうんじゃないか、後悔させるんじゃないかと・・・怖くなった。」