窓際のブラウニー
私と田所さんは夕方になるまで、その場所で話していた。
お互いの子供の頃の話や、初恋の話をしている時、私は結婚していることさえ忘れていた。
こんなにも楽しく話せる男性は、田所さんが最初で最後。
どうすることもできないことはわかっていた。
でも、やっぱりこの人と生きて行きたいと願ってしまう自分を消せなかった。
「真千子さんは美しい。姿だけでなく、心も美しい。僕を狂わせた初めての女性です。」
田所さんは、優しく微笑んで、私の目をじっと見つめた。
キスの予感・・・
「だめですね・・・最後のキスと決めたのに、今またキスをしたくなりました。」
「私もです・・・」
握られた手から、たくさんの愛情が伝わるのに、私達に未来はないような気がした。
「真千子さんがしっかりご主人と向き合い、夫婦としてやり直す覚悟があるなら、僕ともう一度キスをしよう。そうでないなら、次のキスは破滅への一歩になってしまう。」
田所さんは、『夫婦としてやり直す覚悟があるなら』と言う時、とても悲しい顔をした。
瞳の奥の悲しみが伝わってくるけれど、田所さんは私が夫とやり直すことが一番良いのだと自分に言い聞かせているようだった。
「私と田所さんが一緒になる道は・・・ないんですか。」