窓際のブラウニー
また同じ席。
少し高い位置からみんなを見渡す彼。
田所柊二さん。
何も求めない。
ただ、あなたが私の苦労や我慢を少しでもわかってくれるなら
それで私は幸せを感じることができる。
私は人妻であり、母親であり、姑の面倒を看る嫁。
恋なんてしちゃいけない。
芽生えてしまったほんの小さな想いは
小さいまま、胸の中で私を支えてくれればいい。
好きになってはいけない。
ただ、ひとときだけ私を慰めてくれる存在として、
想うくらいは許されますか。
「ブラウニーどうでした?」
無邪気な笑顔を向けないで。
決心がぐらつくじゃない…
「美味しかったです!!またお願いします!」
ありきたりな返答をした私に、彼は言う。
「本気にして、また作りますよ。真千子さん。」
名前を言い合った覚えはない。
どこで知ったのか、彼は得意気な顔で私の名前を口にした。