窓際のブラウニー
バスの窓にくっついた水滴が一粒ずつ垂れていき、合体しては下へ流れ落ちる。
ブーツの足先に染み込んだ雨が今になって体を冷やす。
真千子さん、と呼んだ彼は、彼を見つめたままの私に気付く。
「あ、尾崎さんに聞いたんですよ。お名前を。」
彼はそう言って、右手の手の平を上にして、その手をお義母さんの方へ向けた。
尾崎とはお義母さんのこと。
夫の名字。
もちろん私も尾崎であるが、心から自分が尾崎真千子だと思えないままだった。
お義母さんは、窓の外を眺めたままだった。
1番後ろに座る若い奥さんの視線が気になり、私は曖昧に微笑んで、会話を終わらせた。