窓際のブラウニー
施設に到着したバス。
雨が嫌なのか、お義母さんは席を立とうとしなかった。
「着きましたよ」
動こうとしないお義母さんの手を引っ張る。
それを見た、田所さんが声をかけた。
「いいですよ、ゆっくりで…」
後ろの座席から順番に、忘れ物がないかチェックする田所さん。
やっと腰を上げたお義母さんと、バスの中を歩く。
私の後ろにいた田所さんが…
そっと、私の肩に触れた。
「ちょっといいですか?」
お義母さんの歩く速度はとてもゆっくりだったので、私が立ち止まっても気付かない。
私が田所さんと話していたこともきっと知らない。
すぐに私は追いついて、一緒にバスを降りた。
田所さんが言ってくれた一言は、
これからの私の人生に明るい光を灯してくれた。
『尾崎さん、真千子さんのお話ばかりされてましたよ。優しい嫁が来てくれたんだって自慢してました。だから、いろいろあると思いますが、頑張ってください。』
返事をすることも忘れて、その言葉を頭の中で繰り返した。
田所さんは言った。
『十分頑張ってますよね…疲れたら、休んでください。何かあれば…ここに連絡ください!』
手渡されたのは、名刺。
名刺の裏には、携帯番号とメールアドレスが書かれていた。
あまりの達筆に、印刷ではないかと疑うほどだった。