窓際のブラウニー


帰りのバスにはやっぱり彼はいなかった。



これは社交辞令?


誰にでも渡すもの?





今の空虚な生活の中で、

どれほどこの名刺が私に衝撃を与えたか、彼は知らない。





その日から、何かあるとその名刺を見た。


財布の中に入れ、一日に数回見てしまっていた。






「真千子さん、クリームパンが食べたいわ。」


土曜の朝7時。


夫は、今日も仕事へ出かけた。


私はまだ開いていないスーパーへ出かけ、8時の開店と共に

クリームパンを3つ買った。



レジでお金を払う。


たまった小銭を出すこともできず、千円札を一枚。




名刺を見る。



その一枚の名刺が私を変えてくれる。



「すいません。小銭出していいですか?」


レジの女性は快く千円札を私に返す。



こんなに簡単なことだったんだ。


なぜか、そんな元気もなかった。





クリームパンを3つ、家から持ってきたバッグへ入れ、

スーパーの入り口に出ている屋台へ向かう。



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