窓際のブラウニー


息を切らした田所さんは、少し恥ずかしそうに呼吸を整える。


彫りの深い顔が、もっと深くなる。



「田所さん…どうして?」


私は、目の前にいる田所さんから目を離す事ができなかった。


私の為にバスを降りて、私の元へ走ってきてくれた彼を

さっきよりももっと愛しく感じている自分に気付く。



「どうしてだろう。僕にもわかりません。でもね、真千子さんの姿を見つけた時、僕は何も考えずに体が動いていた。あなたのそばに今いるべきなのは、僕しかいない。」



メールでは親しく話していたが、顔を見てこんな話をするのは初めてだった。



田所さんは、やっと笑ってくれた。



「話しますか!いい店あるんですよ、この近くに」


田所さんは、仕事を放棄してここにいることを忘れているかのように、

穏やかに、自然にそう言った。



そして、さり気なく私の背中に手を回し、道路の内側へエスコートしてくれた。



たったこれだけのことがこんなにも嬉しい。


自分を大事にしてくれているんだと感じることができる。


ほとんど車の通らない細い道に入っても、彼は常に私を気遣ってくれた。


車のよく通る道でも、こんな風に扱われたことはなかった。


自宅から10分の距離。


誰に見られているかわからない。

近所の奥さんや、息子の同級生のお母さんなど、誰に見られているかわからない危険な場所にも関わらず、私は何も怖くなかった。


別に誰に見られても構わないとさえ感じていた。






< 76 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop