窓際のブラウニー
「真千子さん、笑ってる方がいいよ。滅多に笑わないけど、これからは僕が笑わせてあげる。」
自分のことを『僕』と言うせいか、田所さんはかなり若く見えた。
店の中の薄暗さが、今が平日の午前中であることを忘れさせてくれた。
そして、
いつの間にか自分が人妻であること、
姑の面倒を看ていることさえ、忘れていた。
私は、ただの『おんな』になっていた。
彼に夢中だった。
彫りの深いその顔のひとつひとつのパーツに触れてみたい。
『ん?』と言いながら、私の顔を見る時、おでこには何本もしわができる。
笑い方もたくさんあって、優しくにっこり笑う時は、目尻にしわができる。
照れ臭そうに笑う時は、口の横に深いしわ。
田所さんの歴史が詰まった顔。
たくさん笑って、たくさん泣いて、人の悲しみを知っている顔だと思った。