窓際のブラウニー

「真千子さん、笑ってる方がいいよ。滅多に笑わないけど、これからは僕が笑わせてあげる。」



自分のことを『僕』と言うせいか、田所さんはかなり若く見えた。



店の中の薄暗さが、今が平日の午前中であることを忘れさせてくれた。


そして、

いつの間にか自分が人妻であること、

姑の面倒を看ていることさえ、忘れていた。





私は、ただの『おんな』になっていた。



彼に夢中だった。



彫りの深いその顔のひとつひとつのパーツに触れてみたい。


『ん?』と言いながら、私の顔を見る時、おでこには何本もしわができる。



笑い方もたくさんあって、優しくにっこり笑う時は、目尻にしわができる。


照れ臭そうに笑う時は、口の横に深いしわ。




田所さんの歴史が詰まった顔。


たくさん笑って、たくさん泣いて、人の悲しみを知っている顔だと思った。






< 80 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop