窓際のブラウニー


田所さんは、私の荒れた指を見て、細くて綺麗な指だと言った。



ほぼノーメイクの私の顔を見て、肌が綺麗だと言ってくれた。





それだけで私は満たされて、女であることを思い出す。




「真千子さん、これだけは守ってください。荷物の配達や電化製品の取り付けで男性が家に来た時は、体のラインの目立たない服を着て下さいね。」



嬉しくてニヤニヤする私の手を、田所さんはそっと握った。




「そう!その笑顔!真千子さん、我慢ばかりしてるから笑顔を忘れてたんですね。」



温かい手だった。


ごつごつしていると思っていた手が、意外に柔らかく、とても気持ちがいい。




「ずっとここにいたい…もう帰りたくない。」



初めて本音を口にした私の手を、もう一度強く握ってくれた。




「いいですね~!そういうわがままも、きっと今まで真千子さんは我慢していた。これからは、もっと自由にわがままを言って。真千子さんの人生なんだから。」



わがままを言ったことには喜んでくれたが、『帰りたくない』という気持ちを受け止めてはくれない。



そういう人だとわかっていたからこそ、こんなわがままが言えたのかも知れない。



きっと彼は、私に手を出さない。


時間が来ると笑顔で私に手を振る。





呼べばいつでも助けてくれるけれど、彼から私を求めることはない。


そんな気がした。






< 82 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop