窓際のブラウニー
田所さんは、私の荒れた指を見て、細くて綺麗な指だと言った。
ほぼノーメイクの私の顔を見て、肌が綺麗だと言ってくれた。
それだけで私は満たされて、女であることを思い出す。
「真千子さん、これだけは守ってください。荷物の配達や電化製品の取り付けで男性が家に来た時は、体のラインの目立たない服を着て下さいね。」
嬉しくてニヤニヤする私の手を、田所さんはそっと握った。
「そう!その笑顔!真千子さん、我慢ばかりしてるから笑顔を忘れてたんですね。」
温かい手だった。
ごつごつしていると思っていた手が、意外に柔らかく、とても気持ちがいい。
「ずっとここにいたい…もう帰りたくない。」
初めて本音を口にした私の手を、もう一度強く握ってくれた。
「いいですね~!そういうわがままも、きっと今まで真千子さんは我慢していた。これからは、もっと自由にわがままを言って。真千子さんの人生なんだから。」
わがままを言ったことには喜んでくれたが、『帰りたくない』という気持ちを受け止めてはくれない。
そういう人だとわかっていたからこそ、こんなわがままが言えたのかも知れない。
きっと彼は、私に手を出さない。
時間が来ると笑顔で私に手を振る。
呼べばいつでも助けてくれるけれど、彼から私を求めることはない。
そんな気がした。