窓際のブラウニー
机に置かれていた砂時計を、田所さんが空いている左手でひっくり返す。
「この砂時計の砂が全部下に落ちるまでは、このままでいい?」
熱い目で、色っぽい声で、そう言いながら、田所さんは私の手にキスをした。
そして、砂が落ちるまで私の手を自分の頬に当てていた。
時間が止まればいい。
心からそう思った。
お客さんが来るたびに、カランコロンと心地よい音を立てるドアの鐘。
コーヒーのいい香り。
小さな砂時計。
ここは現実ではない夢の世界。
窓のない薄暗い世界。
ただ、この人だけいればいい。
誰にも見つからず、誰にも知られず、
田所さんとの時間を過ごしていたい。
私の存在を誰もが忘れてしまってもいいとさえ思った。
田所さんが、私を見つめていてくれさえすれば、私の心は満たされる。
今の生活よりもっと、『生きている』と感じることができる。