一度の保証(短編集)
あたし達は、黙って座っていた。


時刻は、もう5時半を過ぎていた。


ガチッ!!


部屋に響いた金属のような鈍い音がしたかと思うと、ザッっと風をきるような音とともに声がした。


「留衣ちゃ〜ん
起きてんの?俺、財布忘れてない?
今、克也さんにタクでついてきてもらって取りに…」


裕馬が、あたしと久美が座っている部屋まで入ってきた時、言葉を止めた。


あたしは、声を出すことを忘れ、裕馬と久美 交互に見た。


久美は、裕馬の姿に驚いていた。


裕馬は、ばつの悪そうな顔をして立って止まっていたが、あきらめたように額に手をあてながら、ベッドの近くにあった財布を取り出て行こうとした。


「待ちぃーや!」


久美が、裕馬に怒鳴り、鞄を投げつけ、次は、あたしを見た。


「留衣…
こうゆうことやったん?!知ってたん?
かーくんが、あたしを騙そうとしてたこと?
裕馬くんと、こうゆう仲やったんやもんな!
はじめましてって言ってたのに。
それとも、あの後から?!前から?!
いつからなんよ!」


あたしは久美の言葉に焦った。
早く誤解をときたいが、冷静になってくれそうにない久美にもっと焦った。
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