一度の保証(短編集)
後に、里見から、勘違いだったと聞かされたが、あたしは、里見が良いのなら…と問いつめなかった。



本当の事なんて分からないけど、本当に勘違いだったのかもしれないけど、
「勘違いだったの。ごめんね。
生還したてで、気が動転していて」



そう笑って言った里見の笑顔にくもりがなく、良い顔だったから。



そう、そして、あの日の帰り、総合入り口前で、タクシーに乗り込むと、ドアが閉められる前に、隣に男性が乗り込んできたのが、剛だった。



「え???」



あたしも、運転手も驚きを隠せず



「すみません。相乗りさせて下さい」



「タクシーなら他にもあ―


あたしの言葉が途中でさえぎられ言われた。



「急いでるんです!このタクシーしか今ないみたいなので」



スーツを着て ネクタイもきっちりしめた男性が、額に汗をしめらせながら言った。



タクシーの列を見ると、運悪くか、一台もなかった。


「日比野総合病院まで」



男性は、運転手に告げるとあたしに名刺を出した。


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