『真実の月』と『真実の友』
「空腹に限界がきたら、食っちまうかもしんないけどな。
そうなる前に、頑張ってここから抜け出すんだな。」

ピートは再び青ざめた。

「あわわわ、何とかして抜け出さないと食べられちゃう!」

ピートは静かに、抜け出す方法を考える事にした。

………………。

考える事30分。

ピートは動き出した。

まずは自分で持てそうな大きさの石を、壁側の同じ場所へと集め始めた。

見る見る内に小石の山が完成していく。

ありったけの石を集め終わると、今度はありったけの雪をかき集めた。

そしてそのかき集めた雪を、小石の山の上へと運び始めた。

「何をやってんだ?」

ピートの行動に疑問を感じたシロクマが訊ねた。

「雪の階段を作ってるんだ。
材料はこんなにたくさんあるんだ。
きっと穴の上まで届くはずさ。」

地面に積もった雪を指差し、ピートは自信満々で答えた。

「今日中に抜け出なくちゃいけないんだ!
急がなくちゃ!」

ピートは作業を再開した。

「今日中ってもう無理だぞ。
こんなに暗くなってんのがわかんねぇのか?」

「諦めたくないんだ。
親元を離れて、みんなで協力して、やっとここまで来たんだ!」

ピートは作業を続けながら答えた。

「わざわざこんな山奥に何をしに……ん?
あっ!?そうか!」

シロクマは何かを思い出した様だ。

「『真実の月』かっ!?」

ピートはピタッと動きを止めた。

「シロクマさん、『真実の月』を知ってるの!?」

「小さい頃に見たことがある。
そうか…あれからもう10年か…。」

シロクマは物思いにふけるように、夜空を見上げた。

「凄い凄い!
見た事あるんだ!
その『真実の月』が今日見れるんだ!
10年に一回しか見れないから、僕たちウサギにとっては、最初で最後のチャンスなんだ!」

ウサギの寿命は8年~10年と言われている。

「残念だったな。
『真実の月』が見られる、真実の丘は、もうすぐそこなのにな。
この穴からじゃ、月は見えないぜ。」

「だからこの穴を抜け出すんじゃないか!」

「もう無理だろ。
お前の作った階段を見てみろよ。」

シロクマは雪の階段を指差した。

ピートの努力もむなしく、階段は1メートルも満たない高さまでしか完成していない。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
絶対に『真実の月』を見るんだ!」

ピートはそう叫ぶと、雪の階段へと駆け出した。
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