『真実の月』と『真実の友』
階段の頂上まで行くと、力を込めて垂直の壁へと飛び付いた。

一歩、二歩…壁を蹴り上がった。

しかしそれが限界…。

穴の底へと引き戻された。

「くそ~!」

ピートは叫ぶと、また壁へと立ち向かった。

何度も何度も立ち向かった。

落ちた時の衝撃は、雪が和らげてくれるけど、壁を蹴り上げる足の裏は傷付いて、痛みが増していった。

「もう限界だ…。」

そう言ってシロクマはのっそりと立ち上がった。

限界というシロクマのつぶやきを、ピートの大きな耳は聞き逃さなかった。

「騒ぐ+限界=食べられる」

ピートの頭の中で、方程式が完成した。

しかし、ピートは怯えるより先に、立ち上がったシロクマの姿を見て驚いた。

座っていた時は気付かなかったけど、シロクマの身体は衰弱し、痩せこけていた。

「シロクマさん…いつからこの穴にいるの?」

シロクマがのそのそと近づくのに合わせて、ピートも同じスピードで後ろに下がった。

「1年以上…。」

「1年以上っ!?」

ピートはシロクマが腹ペコなのを確信したと同時に、食べられる事も確信した。

「何故そんなに『真実の月』が見たいんだ?」

シロクマは近付きながら訊ねた。

「理由なんてないよ。
小さい頃からの夢なんだ。
お父さんとお母さんも見たんだ。
この世の物とは思えないほど美しいって言ってた。」

ピートの目は、希望に満ち溢れた輝きを放っていた。

シロクマにはそれがまぶしく感じた。

「仲間と一緒になって頑張ってここまで来たんだ!
こんなところで諦めるもんか!」

ピートは、食べられるという恐怖を捨てて、必死に叫んだ。

「仲間?
その仲間はどうした?
何故お前を助けに来ない?」

「うっ…。」

ピートは口ごもり黙ってしまった。

「仲間なんてそんなもんさ。
俺も体が小さいというだけで、仲間を外され、群れを離れた。
そしてこの様だ。」

ピートには考えられないほどの大きさだけど、群れの中では小さかったようだ。

「そんな見かけで判断する様な仲間なんて、本当の仲間じゃない!」

と叫んだと同時に、後ろに下がっていたピートの背中に壁が触れた。

シロクマとの距離が縮み、シロクマは腕を伸ばしてきた。

ピートはその場にしゃがみ込み、丸くなった。

「っ!?」

声にならない驚きと同時に、ピートはシロクマに、ヒョイっと持ち上げられた。

ピートは硬直して動けない。
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