意地悪な囁き【密フェチ】
意地悪な囁き
『明日、何処で待ち合わせする?』
『何処でもいいけど……』
『すぐそうやって私に決めさせようとして』
『だって、オレ、ホントに何処でもいいし』
『考えるのめんどいんでしょ』
ほんの少しの間のあと。
『うぅん?』
――あ。
やばい。
この声はやばい。
いや、この声に私は弱い。
『何で急に黙るの?』
『べ、別に何でもないわよ』
『へぇ?』
――あ、また。
『そのさ』
『なに?』
『語尾上げるのやめてよ』
『何で?』
電話の向こうでくすりと笑う姿が見える。
『思い出すから』
そう。
これはセックスの時の声。
『何を?』
もう話し声じゃなくなってるし。
普通に喋ってる時は全然気にならないのに、
何かのスイッチが入ったみたいに突然変わる声。
小さめの声で、語尾を上げて。
声帯の振動を抑えて、鼻から抜ける息だけで響かせるような。
まるで甘い吐息のような囁き。
『したくなった?』
絶対わざと言ってるってわかってるのに。
ゆっくり囁かれると、まるで催眠術にかかったみたいに逆らえなくなる。
喉が渇いて、身体も火照って、どんどんおかしくなってく。
『オレが欲しくなった?』
あーもうその声、ホントやめて。
ダメだってば。
『返事は?』
私は、やっと一言、搾り出すように言った。
『意地悪』
堪えきれずにくすくす笑ってる音にさえ感じてしまうのに。
『素直に言えよ』
『――』
とびきり甘く名前を呼ばれて、息が詰まる。
『したい?』
『……うん』
『明日まで待てない?』
『うん』
『じゃ、おねだりして?』
その言葉で頭の中、真っ白になって、私はすごく恥かしいセリフを口にした。
『しょうがないなぁ』
ああ、きっと満足そうな顔してるんだろうな。
『すぐ行くから、待ってろよ?』
電話を切ってもまだ声が聴こえてる。
それが全身に絡まって、身動き出来ない。
でも、もう少し待ってればいい。
あの甘い囁きで私を快楽の世界へ連れてってくれるはずだから。
そう思って目を閉じた私の耳に飛び込んできたのは、チャイムの音。
――え……?
まだ5分くらいしか経ってない。
呪縛を解かれて、ドアホンを取ると、見慣れた姿。
『待った?』
ああ、電話、車から掛けてたのね。
ドアを開けると声の主が現れて、私を抱き締める。
「オレの方が我慢出来なかったんだけどね?」
「その意地悪なの、何とかならないの?」
「でも、好きだろ?」
さっきと同じ声で、優しく名前を囁かれて。
私はまた何か言われるに違いないと身構えた。
「もっかい、ねだれよ」
ほら、やっぱり。
終