眠り姫が目覚める前に
オレはふと視線を部屋の脇にあるキッチンに向ける。


キッチンといっても、一人暮らし用の小さなもので、狭い流しの横に電気コンロが一つついているだけの粗末なものだ。


ほとんど使うことのないそのキッチンから、カレーの匂いがする。


オレは近づいていって、コンロにかかった鍋の蓋をあけた。


そしてもう一度あいつの方へ振り返る。


あいつ――小菅日向。


オレより4つ年下の高校生であり、オレの幼馴染。


オレ達の家は隣同士で、ガキん頃から家族ぐるみで仲が良かった。

だけど家庭の事情があって、オレは一人暮らしを始めるためにこのマンションに引っ越した。


当然、日向ともそれっきり会っていなかった。


なのに……


ある日突然、彼女はオレの前に現れたんだ。

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