にゃあー!とお鳴きなさい。






いつものように支度をして、バッグを肩にかけながら下へと降りる。


やっぱり、夢だったんだ。


本気でそう思い始めたとき、あの香りが鼻をくすぐった。


「え...」


思わず足が止まった。


恐る恐る香りのした方を振り返ると、海がいて―


「―なんだ、海か。そんな所につっ立ってたら、びっくりするだろ?」


「…」


「海?」


黙ったまま俺を見つめる海に違和感を感じて、何故か凄く嫌な予感がした。


「おい。海?」


声をかけながら、焦るように海に一歩近づいた――途端、ふっと視線をそらされた。


「…海?」




「…お前だけは、お前だけは違うと信じていた。夢精をしたって聞いたとき、確かに焦った。焦ったけど…猫になるのは俺だけで、俺で―――」

視線を反らせたまま、まるで独り言のようにそう言って―――


「ね、猫って、猫になるって…何言ってんだよ海――」


笑い飛ばそうとした自分の声が震えてどもる。
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