にゃあー!とお鳴きなさい。
俺を見つめて、目の前にちょこんと座る黒猫。
鋭い目───
闇と同化しそうな黒毛は、ビロードのように妖しく艶めく光っていた。
思わず、吸い込まれるように右手が伸びて、触ろうとした瞬間
「触んな」
口を開いた猫から、海の声がして──
「俺に触っていいのは、夏梅だけだ」
それは、海らしくない低い声。
体中から嫌な汗が出た。
ドクン
ドクンと
心臓が大きな音をたてる。
苦しくて伸ばした右手を引いて、自分の胸を強く抑える。
治まらない。
苦しい
苦しい
苦しい────
「…か、海……ど、どうして…………」
喉から絞り出した声に、黒猫がにやりと笑った。
「おまえにはムリだ」
あざ笑うような海の声が耳に入った瞬間、体の力が一気に抜けていく。
肩から、バッグがドサリと床に落ちて、崩れるようにその場に───────
「海、新人虐め?ケンカはダメよ」
その声に黒猫がビクリと、体を震わせ強張るのが見えて
俺はその場に倒れ込んだ。
覚えているのは、なんともいえないあの香りと
「海、お仕置きをしなくちゃね」
淫猥さを漂わせる夏梅の声だった。