。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
確かにあの女は“普通”とはちょっと違う。
だけど一結とも種類が違う気がした。
何て言うか―――…“悪意”を感じない。
それとも押し隠してるだけか。
でも、風に乗って届いたあの香りは―――“危険”を孕んでいた。
「あの女―――なんかきな臭いて言うか」
響輔が天井を睨んだまま静かに言い放つ。
「お前も気付いてたんか?あの女たぶんカタギやないで」
「いえ、俺が言いたいのはそう言うことやなく、道を踏み外しそうになった感覚が…」
声を低めて響輔が僅かに眉間に皺を寄せた。
「道?何やそれ」
短気に聞くと、
「あれは俺がまだ五歳のときやった―――鈴音姐さん(スズネネエサン)が……」
響輔がぽつりと語りだした。
あ?おかん?
五歳のときに道を外しそうになったって、俺のおかんとどう関係してんだよ。
『響ちゃん一人でお留守番?ええ子やね。ほな、おりこう響ちゃんにお菓子あげるさかい、
お母はんには内緒え?♪』
「そう言うて姐さんは俺にお菓子をくれて頭を撫でてくれた。あのとき恋に堕ちそうになった」
響輔が淡々と語る。
………
知られざる響輔の過去を聞いて、
知らなきゃ良かったぜ!俺は後悔。
ってか俺のおかんかよ!!お前の和服好きのルーツはそこにあったんだな!!
「年齢の壁もあるし、いきなり不倫とか俺面倒やったし…」
その歳で面倒とか言うなよ!ってかそれ以前の問題やろ!!俺のおかんと…マジで勘弁してください!!
懇願に近い返事で縋ると、響輔はふっと笑って、
「まぁあのときはきれいなお姉さん(見た目だけ)に淡い恋心みたいなものを抱いていて、でも成長するとそれは違うて気付きましたけど」
つまり、響輔は俺が彩芽さんに恋をして、浮気するんじゃないかってことを疑っているようだ。