。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。


「行きたいとこってどこ?変なお店はゴメンだぜ?」


あたしはわざと明るく言って戒の手をきゅっと握り返した。


その左手の薬指には、戒がくれた桜のリングがはまってる。


戒はその感触に気付いていただろうけど、そこに確かに存在するってことを改めて知ってもらうために、あたしは絡めた指に僅かに力を入れた。


「朔羅―――」


戒が顔を上げた。その淡い色の瞳がゆらゆら切なそうに揺れていて、


でもそれは一瞬だった。


「変な店じゃねぇって。本屋立ち寄りたいな思って」


「本屋…って、まさかエロ本!?」


「ちげぇって。何でお前は俺をそうゆう目で見るかな~」


いつもの調子に戻って戒があたしのおでこに軽くでこピンしてくる。


いつも通りの二人に……花火大会より前の二人に戻れた気がして、あたしは嬉しかった。




――――戒は本屋に行きたいって言ったよな?


でもここは……どう見ても本屋じゃないよな。


それは華やかな服が飾ってある洋服のショップ。


ショーウィンドウのマネキンはすでに秋服を纏っていた。


気が早いな…残暑だってまだなのに…


って…ちっがぁう!


「ここ来たかったの?」


何で??本屋は?


「本屋はあとで。デートって言えばショッピングじゃね?女と買い物なんてあんまりしないから新鮮かも」


「でも何で服のショップ?しかもレディスだし」


「好きな女の服を見立てるのが俺の夢!♪」


しょぼい夢だな。とは口には出さなかったけど、


「あの待ちくたびれた感が滲み出てる野郎どもを見てると、どうもその気になれなかったけど、


俺は朔羅の服を選びたい。


それっていかにもカップルっぽくない??」



戒がにこっと笑って、その小さな夢もまるで宝物を見つけたような大きな喜びに思えた。





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