。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
ふわり……
すぐ近くに居た女の人二人組みが試し用の瓶を開けて、香りを嗅いでいる。
空気に乗って香りが漂ってきた。
お香みたいなしっとりとした香りで、どこか色っぽい。大人の女を思わさせる香り。
あれ?でも、この香りどこかで―――……
何となく隣の戒を見ると、戒は目を開いて女の人を凝視していた。
いや、視線の先は女の人たちではなく、彼女らが持っている小さな瓶。
「戒?」
「それ!」
戒が振り返り、女の人に勢い込んだ。
突然話しかけられた女の人たちは驚いて目をしばたかせている。あたしだってびっくりだ。
あたしが居るってのにまさかのナンパ?―――には見えない。
目が真剣だったし、戒の視線の先は女の人って言うより、瓶に注がれている。
「えっと…?」
女の人は戸惑いながらも、イケメン戒に突然話しかけられたことにちょっとドキドキしたみたいに顔を赤くしている。
「あ、すんません。それ、何の香水ですか?」
戒が僅かに動揺しながら瓶を指差し、
「あ、えっと。彼女に買うてやろ思うて」
慌ててあたしの方を振り返る。いきなり話を振られてあたしは、ぎこちなく頷くことが精一杯。
「彼女?可愛いわね」と一応はあたしの方に笑顔を向けてくれたものの、女の人たちはちょっと残念そうだった。
それでも彼女たちは素直に、
「これはイヴ サンローランの“Opium”って香水だよ」
女の人はショーケースに並んだボトルの中から一つを指差し、その先には
漆塗りの印籠のようなちょっと変わったデザインのボトルがあった。