。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
結局あたしは戒に手を引かれて、ビルの中にあるカフェに落ち着くことになった。
外側に位置したこの場所からは窓際の席から外の景色が眺められる。
ゆったりとした雰囲気のカフェで女性客が多かった。
マフィンが売りらしく、おいしそうなブルーベリージャムが掛かった見本を見て、
普段なら「うまそう!」なんて言ってよだれを垂らしていそうなのに、今はまるきり食欲が涌かない。
何種類もある本格紅茶の中から、結局何がいいのか分からなくてあたしは普通のダージリンティー。
戒はアイスコーヒーを注文して、飲み物が運ばれると、
「青龍会はヤクはご法度やろ?何で?」と唐突に聞いてきた。
「何でって、簡単に言えば足がつくからだな。ヤクってのはどんだけうまくやっても必ずどこからかアシが着くし、そうなりゃ芋蔓式にパクられるって叔父貴は考えてるみたい。
それにわざわざそんな危険なことしなくても、うちには資金洗浄のプロがいるからな。
まぁ犯罪には変わらないけど、こっちの方が利にかなってるって踏んでるんねぇの?」
「マネーロンダリング…鴇田……か。
なるほど、あの龍崎グループ本社自体が裏金のプール先だ」
「プールって…あの泳ぐ?」
「プール金のことだよ。早い話、裏金の巨大金庫だ。
鴇田はその経理システムを統括する、言わば金庫番だ」
はぁ~なるほど…
戒は考えるように顎に手を置いて、窓の外を眺めた。
今は日が沈む一歩手前って感じで、空がうっすらと赤く色づいている。
その淡い暖色系の色が灰色のビルに反射して、奇妙な色の光を生み出していた。
あたしは叔父貴が何をやってるかなんて知らないし、会社が何のために存在してるのかも分からなかった。
道楽だ、なんて言ってたけど、ちゃんと意味があったんだね。
まぁせちがらい世の中だ?ヤクザじゃなくても、他の企業だってそう言う裏事情はあるだろうし。
「な、何でそんなこと聞くんだよ。もしかしてさっきの彩芽さんの香りを気にしてるのか?」
あたしがおずおずと聞くと、
「まあなぁ。イチといい彩芽さんといい―――どこかで鴇田に繋がってる」
「考えすぎだよ。たかが香水だろ?たまたま気に入って使ってるだけかもしれねぇし」
あたしは苦笑して紅茶のカップに口をつけたが、隣で戒はまだ考えているように目を細めている。
正常な舌だったら、きっとおいしいはずの紅茶の味は
苦味だけしか感じられなく、あまりおいしくなかった―――