。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



我儘じゃないよ。


あたしがいけないの。


本当のこといつまでも話せないあたしが。


こんなタイミングで言うのは間違ってると思うけど、


でも戒だって自分の気持ち、ちゃんとあたしに伝えてくれた。


真正面からぶつかってくれた。


だからちゃんと言わなきゃ―――


あたしは紋のある場所をきゅっと押さえて、後ろを振り返った。


鏡越しじゃなく、ちゃんと戒の目を見て言うんだ。


戒の淡いビー玉みたいなきれいな目をまっすぐに見て―――





「あたしね、花火大会の日、叔父貴とキスした」






あたしの一言に戒が唇を引き結び、目を開いた。まるでそこだけ時間が止まったように、ただひたすらに動作を止めて、


固まった。


たっぷり時間を掛けてその意味を理解するように、頭の中で考えを巡らせているようだった。


止まったまま、まばたきだけは繰り返し、やがて小さく吐息をつくと、




「で?朔羅の気持ちは?


俺のこと好き?あいつのことが好き?どっちに行きたい?」





必死に感情を押し殺しているようだったが、その言葉は僅かに震えていた。


まっすぐあたしを見ている目が不安そうに揺らいでいる。


あたしは戒の腕に手を置いて、きゅっと力強く握った。戒を真正面から見上げて、戒の淡い瞳を覗き込み、戒の頬を手で包んだ。





「あたしは―――あんなことがあったけど、戒が好き。戒と一緒に居たい」




いっぱい考えて悩んだことだけど、これだけは唯一正しいあたしの気持ち。


だったらあたしは、気持ちのまま動くべきだ。



戒は今にも泣きそうな感じで瞳を揺らして、あたしをぎゅっと抱き寄せてきた。


ドキリと心臓が鳴る暇もないぐらいの不意打ちに、びっくりしてあたしが戒の腕の中でピキリと固まる。



「ほんま?」



あたしの耳元で囁く声も僅かに上ずっていた。いつもの余裕で低くドスが利いた声じゃなくて、それは不安げに揺らいでいる。



「うん!あたしは戒が大好きだから!だから……」あとの言葉を続けようとしたときに





「それだけで十分や。それだけで」





戒の声がすぐ近くで聞こえて、あたしを抱きしめる腕に力が篭った。


抱きしめられたまま、あたしはあの夜何があったのか話し出した。


一旦言葉が途切れると、もう一生言えない気がしたから。


あたしは叔父貴と何があったのか包み隠さず、あのときの夜の話をした。


キスされて―――




告白されたことを。




叔父貴が雪斗に見えて怖かったことも。


そのあとドクターが助けてくれたことも。




全部、全部―――







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