。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
エレベーターが最上階に到達して扉が開くと同時だった。
すっと伸びた高い影、感じようとしなくても分かる威圧的で重圧感のある気配。
その人物がエレベーターに乗り込んでこようと、だがよほど慌てていたのだろう。
軽くぶつかると、彼は俺をも制圧するような鋭い視線を這わせ驚くほどの素早さで腰に手を回した。
普通の人間なら彼が何をしようとするのか分からない程、その動作は自然で素早かったが、
ハジキ―――!?
俺は目を開いてその手を慌てて押し止めて、
「お待ちください!私です―――会長」
その手を鎮めるように会長を見上げた。
それでも会長の指先はスーツの腰に挟み込んだハジキのグリップを握ったままだった。
切れ長の瞳から取れるのは、たぎるように熱い怒りの色を浮かべたまま、俺をゆっくりと見下ろす。
この様子から、銃撃のことを知ったのだろう。衛が報せたか―――
「落ち着いてください。お嬢も虎間も響輔も私も、全員無事です。怪我一つしていません」
慌てて言って俺は彼の銃から手を遠のけるよう、ゆっくりと彼の手を握った。
いつも少し温度の低い彼の指先は、俺以上の体温を感じられた。
「鴇田―――……ああ、すまなかった。少し取り乱した…」
会長は深いため息を吐きながら、額に手を置いた。そして俺の手をゆっくりと握り返してくる。
思いのほか力強い力で、俺は怖い―――と言うよりむしろ安心した。
「お前は……大丈夫そうだな」
心配そうに目尻を下げて、俺の無事に心から安堵してくれているようだ。
「ええ、大丈夫です。私も他の三人も。少しお話しがあるのですが、お出かけですか?」
いつもの調子で何でもないように問いかけると、会長は“心配”を、今度ははっきりと
“安心”に変えたように違った意味で表情を引き締めた。