。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「で?頼みたいことって何?請け負うかどうかは内容次第ね」
秘書はそっけなく言って俺から離れる。
話しが早い、と言いたいがまだ拗ねているのが分かった。
俺はため息をついて、額に手を当てた。
「なぁキリ……」
彼女の“名前”を呼ぶと、彼女ははっきりと分かるように表情を歪めた。
俺は滅多に彼女の名前を呼ばない。会社でなら尚更だ。
こんなご機嫌取りなんてしてる場合じゃないし、そもそも女の機嫌取りなんて俺の性に合わない。
しかし今は四の五の言ってる場合じゃないのだ。
この女にしかできないことを頼むわけで、俺は諦めたように再びため息をついた。
「朝霧(アサギリ)―――」
もう一度、今度ははっきりと本名を呼ぶと、彼女はようやく笑みを浮かべた。
しかしその笑みは意地悪そうに口元が歪んでいた。
「簡単な女と思わないでよね」
俺の胸元に指を突きつけると、指先で軽く叩く。
「思ってない」
「ホントかしら?あなたが私に近づいた理由なんて分かってるんだから。
私がいつ“寝返るか”見張ってるんでしょう?」
私は何でも知ってるのよ。
その黒くて長い睫が上下すると、すっと目が細められて俺も目を細めた。
もちろん「そんなことはない」と100%言い切れるわけではないが、俺がこの女を気に入っている大半の理由はそんなことじゃない。
この女が何者であろうと、俺はこの女のことを少なからず気に入っていただろう。
賢くて、美人で―――謎めいている。
おまけに普段は地味な格好をしているのに、時折挑発してくるような色気を漂わせてきて、強烈とも言えるフェロモンに、俺ではなくても彼女を手の入れたいと思う男は大勢居るはず。
「自惚れるな。お前一人の力で何が出来る」
俺は声を低めると朝霧の腰を乱暴に引き寄せた。
そのまま乱暴とも呼べる仕草で、シンクに彼女を押し付けると強引に唇を奪った。