。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
タチバナ―――……
その名前にはやっぱり覚えがなかった。
そのタチバナってヤツが通り過ぎるとき、リコの問題集をきれいな細い指でとんとんと指差し、
「ここ、間違ってるよ」
タチバナが指差した場所は「x2+y2=2 と直線 y=3x+k の共有点の個数を調べよ」と言う問いで、あたしが解いていた問題と一緒の場所だった。
「y=3x+kを円の方程式に代入してyを消去するとx2+(3x+k)2=2
x2+9x2+6kx+k2=2
10x2+6kx+(k2-2)=0
この2次方程式の判別式をDとおくと
D'=(3k)2-10(k2-2)= -k2+20
だ」
すらすらと解く式はあたしにはまるきり分からなかったが、リコは理解したのか、
「ホントだ!!すっごい!あたし十五分悩んだのに」と声を上げた。
「円に関しての問題は得意なんだ。がんばって」
タチバナは爽やかな笑顔を浮かべて、彩芽さんの待つ奥の席へと移動していこうとした。
でも思いとどまったように脚を止め、ちょっと前かがみになってテーブルに手をつくと、
「ここは季節はずれの桜の香りがするな」
あたしの顔を覗き込み、にやりと笑みを浮かべて、
あたしがドキリとして目を開くと、タチバナは今度こそ満足そうに立ち去っていった。
な、なんなんだ―――あいつ!!!