。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



俺のつま先は男の喉元を数センチ外れて、壁にぶつかった。


ガンッ、と派手な音がした。


男が俺の脚の行方をそろりと横目で追って、頬を一筋の汗が伝い落ちる。


「あかん、外してもうたわ」


俺が脚を戻すと、男は一層顔色を悪くさせた。


「ほんまに裏カジノがあるんか?ガセやったら、今度こそタマ(命)ないで」


響輔が迫力を湛えた表情で男の襟首を掴み、締め上げる。


首元が絞まった男は苦しそうに呼吸を繰り返しながらも、


「ほ、本当だ!!毎週水曜日深夜0時から、ここの地下がカジノに変わる」


「違法カジノやな。入り方は?」


俺が聞くと、


「あ、あそこの扉……」男は苦しそうに喘ぎながら、震える指先でさっき看板が倒された辺りを指差した。


目を細めると、確かにそこには壁と同系色の扉が浮き出ている。


「あの扉を三回、二回、三回の順でノックすれば、中から……く、組員が確認する」


「誰でも入れるんか?」


「か、会員制ではない…」


「ほんまやろうな。騙そうかてそうはいかんで」


響輔がさらに締め上げると、今度こそ気道が締まって男は苦しそうにもがいた。


顔が赤いのは気道を締めてることで酸欠状態に陥っているからだ。


俺は確認する意味で、倒れこんでいる女を見下ろした。


女は真夏だと言うのに、さっき男に殴られた恐怖からだろうか響輔の上着をきゅっと握り締めて顔を青ざめていたが、


「本当です…」怯えているようだが何とか頷く。


「審査は特にあらへんの?」


「ありません。ただボディーチェックはされるし、見るからに怪しい人物…警察関係者とかマスコミだと分かる人間は入れません。それから…」


言いかけて女が口をつぐんだ。




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