。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
間抜けな顔で唖然とした男を置き去りにして、響輔のシャドウファントムはどんどん遠ざかっていく。
あたしは響輔にしがみつきながら、
まるで悪者から姫を救う王子さまみたい、なんてぼんやりと思ってしまった。
だけどこいつは王子さまでもなければ、正義のヒーローでもない。
正真正銘のヤクザだ。
途中、ガラの悪い若者が原付きを二人乗りして、あたしたちと言うより、まるで響輔を挑発するかのようにバイクを寄せると、
「ヒュ~♪美人な姉ちゃん♪こっちこねぇ?」とあたしたちの様子をからかうように笑った。
「黙れや。いてまうぞこらぁ!死にてぇのか」
響輔の尋常じゃない一喝で、原付きの若者二人は慌てて逃げていった。
黙ってれば爽やかなのに、このヤクザ丸出しの口調にあたしは思わず苦笑い。
響輔はスピードを出すと言ったが、それは最初のうちだけで、すぐにスピードを落としてその後はこの前カーチェイスをしたときとは嘘みたいな安全運転だった。
それでもさすがにこの状態は異様なのか、あたしたちの様子に対向車線ですれ違う車に乗っていた人たちが驚いたように目をみはっていた。
それすらも何だか楽しい。
あたしはここぞと言うばかりに響輔の細い腰にぎゅっと力を入れてしがみついた。
もしかしてこんなチャンス二度とないかもしれないじゃん??
響輔のシャツからは爽やかな柔軟剤が香ってきて、響輔の腰は細いのにただ細いだけじゃなくて、きれいな筋肉がついていて―――
風でなびく黒い前髪とか、風除けのサングラスの奥の切れ長の瞳が真剣な様子とか―――
色っぽい。
それを考えると、どうしようもなくドキドキした。
だけど短いドライブはすぐに終わり。
響輔はひとけの居ない神社の前が近づくと、スピードを緩めて停車させた。
「悪かったな。怖い思いさせてもうて」
「誰が。怖くなんてなかったし」
ぷいと顔を逸らすあたしは、やっぱり可愛くない。
しかもせっかく響輔はいつになく素直に謝ってくれたって言うのに、
「ってか何!こんなことして!」
と思わず怒鳴っていた。
ああ……とことん可愛くないあたし。