。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
響輔が驚いたように目をまばたき、あたしは響輔の顔を下から覗き込んだ。
「い、いいじゃない!疲れたり、寂しくなったりすることなんて誰でもあるし」
「…え、うん」
響輔が戸惑ったように小さく頷いて、何となくあたしから視線を逸らそうとした。
あたしはそんな響輔を先回りするかのように体をずらすと、
響輔を真正面から見つめた。
響輔がまたも戸惑ったように目を開いて、それでも今度は目を逸らそうとはしなかった。
「ねぇ
あたしじゃダメ?」
思えば男にこんなことを言ったのは生まれてはじめてのことだった。
あたしが告白しなくても大抵男の方から言ってくるし、あたしはそれにYesかNoで答えるだけ。
ドラマでよくある。
『あたしじゃダメ?』なんて安っぽい台詞を吐く女は、やっぱりどこか安っぽい女優で、
仕事の為と割り切って体を売る女より、ずっとずっとダメ女だと思ってた。
誰かの代わりになるなんてまっぴらだし、最初から“自分”を求められないなんて絶対いやだった。
そんなことを言う女だけにはなりたくない、と思っていたのに、
今あたしは、この男を前に―――絶対に言わないと誓った台詞を意図も簡単に吐いている。
当然、響輔はひたすらに驚いた様子で目を開いて―――
でもその驚きの表情を、すぐにいつもの無表情に変えた。
「ってかあんたって俺のこと嫌いやったんやないの?」
探るように目を上げて聞いてきた言葉に―――
またもムカついた。
「嫌いっていつ言ったの?この鈍感男」
あたしは響輔の腕を引くと、少しだけ背中を伸ばし響輔の唇に唇を合わせた。