。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
男は意味深ににやりと口元に笑みを浮かべ、口笛を吹きながらエントランスホールをくぐっていった。
きっとこんなところで痴話喧嘩でもしているように見えたのか、あたしは慌てて姿勢を戻した。
それでも頭の中が混乱して、あたしはまともに響輔の顔を見られなかった。
“あの男”が響輔を―――…いえ、その場に少なくとも虎間 戒と朔羅が居たようだが……
手のひらに握られた弾は現実を知らしめるように冷え切っていた。
「俺はあんたが指示したとは思ってへんよ。
ただ、相手は思ったより易しい相手やなさそうやってこと伝えたかったんや。
気ぃ付けぇ」
それだけ言うと今度、響輔は本当に走り出しそうになって、あたしはまたも慌ててその腕に縋った。
「大丈夫やて。疑ってへんし」
と若干うんざり気味の響輔がのろりと顔を上げる。サングラスをしてるからその目がどんな表情を語っているのか分からないけれど、
疑う疑ってない以前の問題だ。
あたしは響輔の頬に手を這わせてサングラスを取り上げると、
「何するっ……」
と言う響輔の言葉を遮るように、今度は顔を引き寄せて強引に口付けを落とした。
驚いたように目を開いた気配がして、あたしの両肩を押し戻すかのように手を置く。
それでも元来が女に優しいのか、乱暴なことはしてこなかった。
その優しさに漬け込んで、響輔の黒くてさらりとした髪に手を入れぐしゃぐしゃにまさぐるようにして指を這わす。
「ちょぉ!」
口付けの合間に響輔は何か抵抗の言葉を口にしていたが、それすらも唇で塞いで言えなくしてやる。
やがて諦めたのか、あたしの肩に置かれた手をあたしの頬に移動させてきた。