。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
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響輔は何も答えなかった。
YseもNoも「考えさして」もなし。
ただ戸惑ったように瞳を揺らしていた。
「……ごめん。急だったよね」
「……ああ、まぁね」
と表情を強張らせて、あたしもそれ以上引き止めるのも悪い気がして響輔の腕から手を離した。
「また連絡していい?」
そう聞くと、
「ほどほどに…」とだけ返事が返ってきた。
完全な拒否をされなくて、それだけに救われたが―――
響輔のバイクが行ってしまうと、あたしはいつまでもその後ろ姿を見送ることなく、逃げるようにエントランスホールに向った。
バカみたい。何言ってんのよ、あたし……
計画は止まらない。そう決めたのに―――
エントランスは客室の階に繋がるエレベーターが6台ほどあって、その前にさっき通り過ぎていった金髪の男が腕組みをして立っていた。
少し長めの黒い長袖パーカーにブラックジーンズ。目にはサングラス。鮮やかに染まりあがった金髪は立たせてある。
何でまだ居るのか訝しんだが、あたしは何食わぬ顔をしてその男と別のエレベーターを待つことにした。
「デートは楽しかった?」
ふいに男が喋りかけてきて、あたしは思わず顔を上げた。
この声―――……
…いや、あたしの思い違いだろう。
こんな男知らないし。
男の白い肌にうっすらと赤い唇が、にやりと笑顔を浮かべる。
この男…覗き見してたってわけ?悪趣味なヤツ。
カップルのラブシーンを見て愉しむ変質者かもしれない、そう思ってあたしは苛々とエレベーターの“昇”ボタンを連打した。
「どうしたんだよ、そんなに苛々して。まさか“あの日”」
その言葉を、声を聞いて、あたしは目を開いた。
“上昇”ボタンを押していたあたしの指が止まり、男を仰ぎ見て―――
「玄蛇―――……?」
あたしは“協力者”の男の名前を呼んだ。